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2-26 怒涛のパーティー 4

last update Dernière mise à jour: 2025-10-16 08:57:46
パーティーの協賛が天野グループと気付いてしまった沙月。

(こんな茶番なパーティーなんか、もういる意味無いわね)

踵を返した瞬間、背後の男性とぶつかってしまった。

「あっ……!」

パシャッ

男性が手にしていた赤ワインのグラスが傾き、スーツに深紅の染みが広がった。

「あ……! 申し訳ありません……! スーツが……!」

沙月は慌ててハンカチを取り出し、染みを拭おうとしたとき。

「大丈夫ですよ、天野さん。それより、あなたが濡れなくてよかったです」

落ち着いた声が、頭上から聞こえた。

(え……? その声は……)

顔をあげると、霧島が自分を見下ろしている。

「霧島さん! どうしてここに……?」

「今日は報道局の顧問としてこちらのパーティーに参加していたのです。スーツのことは気にしないでください」

「で、ですが……」

すると霧島が笑顔になる。

「……奇麗ですね。そのドレス、とてもよくお似合いです。清楚なあなたにぴったりだ」

「え……?」

沙月は一瞬、言葉を失った。

その時、背後から鋭い声が飛んできた。

「沙月!」

振り返ると、白石夫婦と、勝ち誇った表情の遥が立っていた。

遥の唇には、冷たい笑みが浮かんでいる。

「お姉ちゃん、こんな場所に来るなんて随分大胆になったものね。ところで今どんな気持ち? 澪さんが司さんと結婚するから、もうすぐ『天野夫人』って肩書きが消えるんでしょう? ねぇ、教えてちょうだいよ」

沙月は何も言わず、遥を見つめる。

自分でも驚くほどに心の中は冷静だった。

(この人たちを喜ばせる台詞は言うつもりはないわ……)

「別に、何も思わないわ。だってもう私には関係のないことだから」

「なっ……!」

遥が声を荒げようとしたとき。

「天野さん」

不意に霧島が話しかけ、沙月は慌てて振り返った。

「あ、は、はい!」

「ワインの染みを落としに行きたいので、お手伝いしていただけないでしょうか?」

照れ臭そうに笑う霧島。

「あ……そ、そうですよね? 私のせいでワインがかかってしまったのですから」

霧島は白石家の者たちが口を開く前に会釈した。

「彼女の手助けが必要なので失礼いたします。ワインの染みを落としたいので」

そして笑顔で沙月に向き直る。

「では行きましょう」

「はい」

沙月は頷き、霧島と供に会場の外へ向かって歩き出した。

その背中に、遥の冷たい視線が突き刺さって来るのを感じながら
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